マツダがNIのHILSを利用して電装品用の自動評価環境を構築―試験に伴う操作や結果判定にかかる工数を大幅に削減

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"NIのテストプラットフォームを活用することで、HILSだけでなく、ロボットや、音声合成システム、GPSシミュレータなどの様々な要素を、豊富なエコシステムを通じて実現し、電装品の統合自動試験環境を構築することができた。これにより、試験に伴う操作に要する工数を90%削減し、また結果判定にかかる工数も90%削減することができた。"

- Tomohiko Adachi, Mazda Motor Corporation

The Challenge:
あらゆる電装品を協調動作させた状態でロジック(機能)を確認することができ、ロバスト性の評価も実施可能なシステムを一から構築する。一連の評価に必要な操作や結果の判定作業も自動的に行えるシステムとする。

The Solution:
PXI製品、再構成可能I/Oモジュール(FPGA)、LabVIEWで構成されるNIのHILSを利用してシステムを構築する。ロバスト性の評価を行うために、ノイズシミュレータやGPSシミュレータ、音声合成システムなども統合する。また、自動化を達成するために、ロボットや画像処理システムの統合も図る。

Author(s):
Tomohiko Adachi - Mazda Motor Corporation
Hideyuki OKADA - Mazda Motor Corporation
Noriaki Kittaka - Mazda Motor Corporation
Masaya Taniguchi - Mazda Motor Corporation
Yasuhisa Okada - MAC Systems Corporation

 

背景

周知のとおり、自動車では急速に電子化が進んでいる。ワイパーやドアロックの制御に始まり、照明や空調、パワートレイン、インフォテインメント、さらには各種の安全システムなど、現在ではあらゆる部分に電装品が適用されている。当初、自動車に搭載されるCPUの数はわずか数個程度だった。それが現在では、3桁に迫る勢いと言われるレベルにまで増加している。

 

マツダの電子実研グループは、顧客に品質の高い製品を提供するために、すべての電装品の「ロジック」と「ロバスト性」を評価するという役割を果たしている。ここで言うロジックとは、各電装品が備える機能のことである。もう一方のロバスト性とは次のようなものだ。電装品の動作環境は必ずしも理想的な状態にあるとは限らない。例えば、電源電圧が変動したり、ノイズが加わったり、望ましくない質の入力信号が印加されたりといった具合に、厳しい条件にさらされる可能性がある。ロバスト性とは、そのような環境に耐えて正しいロジックで動作する能力のことだ。つまり、各電装品が厳しい条件にどこまで耐えられるのかを評価するということである。

 

 

課題

電装品のロジックとロバスト性の評価は、従来も行っていた。電装品の種類が少なく機能も単純だったころには、各電装品を単体で動作させられる環境を用意して評価するという手法で対応できていた。しかし、電装品の種類が増え、それぞれの機能も非常に複雑になったことから、いくつかの課題が浮上することになった。昨今では複数の電装システムの間で通信が行われ、一方のシステムの動作結果を基にしてもう一方のシステムが動作するという形態が増えてきた。そのため、個々のシステムを単体で試験するだけではなく、関連するシステムを協調動作させた状態で試験を行わなければ意味がないという状況になった。また、その状態でロバスト性の評価も行えるようにする必要があった。しかも、コンポーネントやユニットの種類が増えると、評価項目の数は指数関数的に増加していく。そのため、自動的に評価作業が行えるシステムが必要になることは明らかだった。

 

マツダではこのような課題について10年ほど前から認識していた。しかし、これらすべての要件に対応可能な評価システムは世の中に存在しなかった。このような状況を受けて、私たちはこの課題に真っ向から取り組むことにした。つまり、あらゆる電装品を協調動作させた状態でロジックを確認することができ、ロバスト性の評価も実施可能で、一連の評価作業を自動化できるシステムを一から構築することにしたということである。

 

 

ソリューション/効果

構築するシステムは、非常に大規模で複雑なものになる。そのため、その開発作業は数年間にわたって段階的に進めることにした。図1に、その第1段階の概念図を示した。システムの構成要素は、HILS(Hardware-in-the-Loop Simulation)エンジン、ロボット、画像処理システムである。HILSエンジンの部分には、NIのHILSを採用している。つまり、ハードウェアとしては、PXI(PCI eXtensions for Instrumentation)製品や「再構成可能I/Oモジュール(FPGA)」を使用した。それらのハードウェア上で稼働するソフトウェアはシステム開発プラットフォーム「LabVIEW」を使用して開発した。

 

図1. 第1段階のシステムの概念図

 

このシステムにHILSを採用した理由は次のようなことである。マツダは、世界初の物を開発する、世界初のことをやるということに注力している。1つの例として、他社に先駆けてモデルベース開発を強く推進し、実用レベルで活用してきたことが挙げられる。そのような背景もあり、電装品の評価にも、できればモデルを活用していきたいと考えている。しかし、電装品の評価においては、どうしてもモデル化できない部分というものが存在する。モデル化できない部分への対応のために、通常はHILS本体以外に装置システムを別途用意してHILSシステムを構築するが、マツダはHILS本体を拡張することで対応した。NIのPXIプラットフォームは、様々なテスト装置の構築に適しているため、HILS本体と拡張部分をHILS本体システム上で実現できた。

 

モデル化ができない部分は、いくつか存在する。特に、人と車の間のインタフェース部などはモデル化することができない。ここでは最も理解しやすい例として速度メーターを取り上げる。速度メーターに、車両の速度に対応する値として「50 km/h」と表示するケースを考えてみる。その場合、速度メーターを制御するユニットから、「50 km/hと表示せよ」という指令を意味する信号が出力されることになる。その信号はシミュレーションでも評価できるし、実機でも確認可能である。そして、システムが正しく機能しているなら、その信号を受け取った結果、速度メーターには「50 km/h」と表示されているはずだ。ただ、本当に「50 km/h」と認識できるように表示されているかどうかは、人間の目で確認しなければわからない。つまり、車からの情報をドライバーがどう認識するかという部分はモデル化できないということだ。同様に、車に対して情報を伝達するためにドライバーが行う操作の部分もモデル化することができない。例えば、車を運転しているドライバーは、ボタンを押してエアコンをオン/オフしたり、タッチパネルに触れてナビゲーションシステムを操作したりするはずだ。その操作において生じる可能性のある微妙な状態を、そっくりそのまま再現することが可能なモデルを構築することはできないのである。

 

しかしながら、「Be a driver」を掲げるマツダとしては上記のモデル化が困難な領域こそ評価として注力すべき領域であると考えた。単純に考えれば、車(電装品)に対してドライバーが情報を伝達するには、実際に人間がボタンなどを操作しなければならないということになる(事実、そうした手作業による試験も少なからず行ってきた)。ただ、それでは評価作業に莫大な工数がかかってしまう。したがって、評価作業を自動化するための仕組みも必要だった。そこで導入したのが電装品の操作に使用するロボットだ。このロボットが、コンピュータ制御の下、実際にボタンを押したり、タッチパネルを触ったりするということである。同様に、車(電装品)からドライバーへの情報伝達についても考える必要があった。速度メーターの例で言うと、単純に考えれば、表示を実際に人間が目で見て本当に「50 km/h」と認識できるか否かを判断するということになる(このような方法による試験も実際に行ってきた)。画像処理システムを導入したのは、この部分を自動化するためである。具体的には、速度メーターの表示をカメラで撮影し、得られた画像に処理を適用することで、OK/NGの判定を自動化できるようにした。仮に、速度の表示が7セグメントのLEDで行われるとすると、その様子をカメラで撮影し、画像処理によって文字を認識することで表示内容を確認するということである。あるいは、速度が針で表示されるのであれば、画像処理を利用して針の角度を算出し、それによって何km/hを指しているのかを判断する。制御ユニットからの信号と表示の両方を監視して突き合わせを行うことで、正しく表示されているか否かを判断するということである。

 

なお、このシステムでは、ソフトウェアで実現した仮想システム(仮想電装品)によって各電装品を代替することもできる。すべての電装品が完成してからでなければ評価を進められないということでは制約が大きい。なるべく早く着手して、なるべく早く結論を出したいので、実機の代わりに仮想電装品を利用できるようにもしているということである。この仮想電装品については、単に実機と同様に動作するということだけでなく、ルックアンドフィールも含めて実機に非常に近いものになっている。試験の内容に応じ、本質的に実機を使うべきところは実機を使用し、そうでない部分は仮想電装品で代用するといった柔軟な運用が可能になっているということである。

 

ここまでに説明した内容は、基本的にはロジックを検証するための仕組みだと言うことができる。それに加え、このシステムではロバスト性の評価も行えるようにする必要があった。現在、マツダではロジックを単純にOK/NGで判定するのではなく、ロバスト性を検証することを重要視している。マツダの場合、ロバスト性の評価では、正しいロジックでの動作が限界を迎える条件を見極めるとともに、それに対してどれだけの余裕があるのかを確認している。どれだけの余裕があれば合格とするかについては、マツダ社内で独自の基準を設定している。このような評価を行うことにより、優れたユーザーエクスペリエンスを提供したり、サプライヤ企業を含む設計部門に対して的確に情報をフィードバックしたりすることが可能になる。

 

ロバスト性の中で最も代表的なものとしては、電源電圧の変動やノイズに対する耐性が挙げられる。例えば、電源電圧の値を変化させながら、評価の対象としている電装品がどこで正しく動作しなくなるのかを見極めるということである。このような評価を実施できるようにするために、第2段階のシステムでは図1の構成に対してノイズシミュレータを追加した。

 

ただ、電源電圧の変動やノイズだけがロバスト性の評価の対象になるわけではない。例えば、自動車の機能の中には、ドライバーからの操作手段として発声を利用できるようになっているものがある。これについても、ロバスト性の評価の対象となる。そのために追加したのが、音声合成システムである。日本語と英語に対応するこのシステムにより、老若男女の声、強弱、滑舌などの面で、さまざまなバリエーションの操作用音声を発せられるようにしておく。それらのバリエーションに対し、どこまでなら正しく認識して指示どおりに機能が働くのかという観点からロバスト性の評価を行うということである。

 

また、第3段階ではGPSシミュレータも追加した。これは、国内各地の座標に対応するGPSの電波信号を模擬的に生成するというものである。これを利用すれば、現地に赴くことなく、任意の場所での評価を模擬することができる。このGPSシミュレータからの電波の強度などについても、どこまでなら耐えられるのかという評価を行う。つまり、これもロバスト性評価の1つだ。なお、この第3段階では、操作用のロボットを、複数個所に同時に触れられるタイプのものに更新した。

 

第4段階では、GPSシミュレータを全世界対応とした。また、音声合成システムではスペイン語もサポートした。さらに、Bluetooth信号用のアナライザや、セキュリティに対する脆弱性を検出するためのファジングツールも追加した(図2)。ただ、これらすべての機能に対応するシステムはかなりの設置スペースを要するものになる。そこで利便性を考慮し、実際の試験では、機能を絞って小型化したシステムを複数台利用している(図3、図4)。

 

図2. 第4段階のシステムの概念図

 

図3. 小型化されたシステムの外観1

 

 

図3. 小型化されたシステムの外観2

 

このようにして、複数の電装品を協調動作させた状態で、ロジックとロバスト性を自動的に評価することが可能な世界初のシステムを構築することができた。上述したように、開発したシステムは、世の中には存在しない新たな発想を基づいたものだった。しかも、非常に複雑かつ大規模なシステムである。このようなシステムを実現できた背景にはいくつかの要因がある。

 

第一に挙げられるのは電子実研グループの存在である。つまり、マツダは社内に専属のテストエンジニアリングチームを擁しているということが重要なポイントだった。将来的に限界を迎えるであろう電装品の評価手法を、抜本的に変革するにはどうすればよいのか。このような大きな課題に直面した際、テストに関する多くの事柄を外部に委託するというスタイルをとっていたのでは対応できない。高い専門性を有したチームが社内に存在するため、目の前にある大きな課題に真正面から対処可能な方法を考案し、それを具現化する術を探ることができたのである。つまりは、課題に対処するために主導的な立場をとれる組織が自社内に存在することが重要だったということだ。

 

もう1つ、このシステムの構築に貢献したのがNIの製品群である。NIの強みの1つは、同社の製品群に加えて、それらとの統合が可能な他社製品やパートナー企業などで構成されるエコシステムを活用できる点にあると考えている。例えば、今回のシステムは、ロボット、画像処理システム、音声認識システムなど、さまざまな要素を使用して構成されている。それらすべてを1つの企業から入手するというのは難しい。そのため、NIのHILシステムと併用できる最適な要素、つまりはさまざまな企業から提供されている製品の中から最適なものを集めて、LabVIEWなどを活用して統合を図ることが鍵になる。この点において、NIのエコシステムが大きな支えになるということである。もちろん、広く使われているターンキー型のソリューションを使える部分についてはそれを使えばよい。しかし、今回のシステムのように、世の中に存在しないものを一から構築したいといった場合にはNIのソリューションが適している。

 

また、このシステム開発においては、NIのハードウェアが備える性能の高さと、プログラミングの自由度の高さがポイントになった。ハードウェアの性能としては、サンプリング速度(時間分解能)の高さが重要な意味を持っていた。このシステムの場合、ロジックの試験にはミリ秒オーダーの時間分解能で対応できる。一方、ノイズの影響などは、マイクロ秒オーダーの時間分解能でサンプリングできなければ評価が行えなかった。そして、マイクロ秒オーダーでサンプリングを実施できるものはNIの製品しか存在しなかった。また、NIのソリューションでは、製品が内蔵しているFPGAもユーザーの手でプログラミングすることができる。ここまでの自由度を提供している製品もほかにはない。加えて、ターンキー型のソリューションの場合、自動車の世代が更新されたときにはシステム全体の買い替えが必要になる可能性が高い。一方、NIのソリューションは拡張性や柔軟性に優れているので、大部分のハードウェアは継続して使用しつつ、必要なモジュールだけを追加/変更することで対処できるだろう。このように、将来のニーズに対応できる点もメリットの1つだ。

 

今回開発したシステムを利用することにより、数多くの電装品を協調動作させた状態でロジックとロバスト性を評価できるようになった。これについては、そもそも同じことができるものが世の中に存在していなかったので、非常に大きな成果が得られたことになる。しかも、各試験に必要な操作と結果の判定を自動化できたことで、工数削減の面でも大きなメリットが得られている。ある電装品の例では、実車を使用して手作業で行っていた試験と比較して、操作に要する工数を90%削減できた。また、速度メーターなどの表示をカメラで撮影し、その映像を目視で確認して判定を行う場合と比較すると、今回のシステムの自動判定機能により工数を90%削減できた。

 

 

今後の展開

今回開発したシステムについては、今後も段階的に進化させていくことになる。現在は、NI製品をベースとするこのシステムによって、すべての電装品を評価できるようにすることを目指して取り組みを行っている。なお、電子実研グループが対象としているのはすべての電装品であり、その中には、パワートレイン系の電装品も含まれている。ただし、それらに関しては、今回のシステムに先行し、ターンキー型のHILシステムを使って評価を行っていた。そのため、NI製品をベースとするシステムで評価の対象とするのは、パワートレイン系を除くすべての電装品ということになる。エンジンにしても、電装品にしても、マツダは引き続き世界初のものを作り出していく。その評価にも世界初の試験システムを利用すべく、開発に取り組んでいく。

 

 

こちらの動画の音声は、LabVIEWを使用して作成しています。

 

Author Information:
Tomohiko Adachi
Mazda Motor Corporation
広島県府中市
Japan

Next Steps

NIの自動テストに関するソリューションはこちらをご覧ください。

NIのHIL (Hardware-in-the-Loop)テストの詳細はこちらをご覧ください。

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