大型ヘリカル装置定常運転ためCompactRIO制御システム開発

- Shuji KAMIO, 核融合科学研究所

"本システム導入したことにより、従来同じ発振最大入射パワー3.5MWから4.5MWまで上昇した。また、多く作業自動化れ、開発者以外技術スタッフ操作容易え、それまで実験機器運転かかりきり実験に関する議論実験条件最適化・解析あてることできた。"

- Shuji KAMIO, 核融合科学研究所

課題:

装置の中で長時間プラズマをつけておくために本プログラムに求められる課題は2つある。1つは温度や密度など、プラズマの状態を一定に保つこと、もう1つは加熱機器の異常に対し即座に対応し、機器を健全に保つことである。

ソリューション:

システム概念図中右上の赤枠が本システムであり、LHD内のプラズマの情報・加熱機器の情報を収集し、制御用の信号を出している。これらの情報は、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)によって常に監視・直感的に操作しており、実験パラメータの操作が可能となった。

概要

核融合発電の実用化に向けた研究は、実際に大型装置で核融合を起こす実験も行われているが、その時間はまだ数秒単位であり、商業炉として実用化するためには最低でも数十時間から数か月の運転ができるようにならなければならない。核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)では、このような課題に取り組むため、数千万度の高温プラズマを長時間安定して維持する実験を行っている。高温を維持するための加熱・燃料のガスの制御をリアルタイムでフィードバックして安定的に運転する制御プログラムを開発し、実験に用いることで、これまでフランスTore Supra装置が保有していた記録「総加熱量1.0GJ(6分)」を大きく更新する「3.3GJ(48分)」の世界記録を達成した。これは、これまでの制御では達成しえなかった記録である。

 

1. 背景

今後百数十年で化石燃料の枯渇という問題に直面する人類にとって、再生可能な燃料による新しい発電は非常に重要である。この点核融合発電は、燃料のトリチウムは海水から抽出できるリチウムから生成できるため無尽蔵な燃料を供給でき、また原子力発電のような高レベル放射性廃棄物や事故は起こらないという点でも実用化が期待されている。核融合発電の実用化に向けた研究は、まだまだ物理的な課題も残っているものの、近年の研究の進展により、次第に工学的課題への取り組みにシフトしてきている。実際に大型装置で核融合を起こす実験も行われているが、その時間はまだ数秒単位であり、商業炉として実用化するためには最低でも数十時間から数か月の運転ができるようにならなければならない。図1に示す大型ヘリカル装置(LHD)では、太陽の中心よりも温度の高い数千万度の高温プラズマを長時間安定して維持する実験を行っている。高温プラズマを長時間維持するには、メガワット級の加熱パワーを長時間安定して供給し続ける必要があり、ハード・ソフトともに高い技術が必要である。本作品はこの運転のための制御プログラムであり、フィードバック制御により高温プラズマの定常的な運転の長時間世界記録を達成した成果について報告するものである。


2. 課題

装置の中で長時間プラズマをつけておくために本プログラムに求められる課題は2つある。1つは温度や密度など、プラズマの状態を一定に保つこと、もう1つは加熱機器の異常に対し即座に対応し、機器を健全に保つことである。

 

2-1.安定したプラズマ温度・密度の維持
長時間維持する上でもっとも注視すべきパラメータはプラズマの密度で、濃すぎると全体が冷えて加熱パワーが足りず崩壊し、薄すぎると高速になりすぎた粒子により壁が部分的に高温になり、壁からのアウトガスにより放電が停止してしまう。本作品では制御の手段として、電磁波加熱入力パワー・封入ガス量を変え、目的の密度10兆個/ccに保つ。不純物の混入や加熱機器のトラブルなど、急なイベントにも対応できるような高速処理をしつつ、長時間安定して動作するシステムの構築が必要である。

 

2-2.運転状態の監視
プラズマを高温・高密度領域まで加熱するためには大電力のビームや電磁波を安定して入射することが必要である。プラズマを効率よく加熱するための電磁波生成システム制御は非常に複雑であり、異常を検知するために監視すべき箇所は多く、異常の種類により、対応も多岐にわたる。この異常対応を怠ると電源や装置の破損につながり、実験の中断や大きな損害に発展する恐れもある。これまでは人の目で判断して遮断する部分も多かったので、停止させるまでの間に損害が拡大することもあり、インターロックの改善は急務であった。また、プラズマの急な変化に対しても準備をしておく必要があり、急な不純物の混入などで温度や密度が急変化した場合には、加熱パワーを増やすなどして対策をとる必要がある。

 

3.ソリューション
図2に、システム概念図を示す。図中右上の赤枠が本システムであり、LHD内のプラズマの情報・加熱機器の情報を収集し、制御用の信号を出している。これらの情報は、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)によって常に監視・直感的に操作しており、実験パラメータの操作が可能となった。

 

3-1.システム構成
本システムは目的別に用意したCompactRIOコントローラに、必要な速度応答・チャンネル数のモジュールを選定し運用した。LHD実験は大型のプロジェクトであり、システムの故障やトラブルが発生した際に実験を止めたり期間を延ばしたりすることができないため、再現性の高い代替品がすぐに用意でき、プログラムの複製・修正が容易にできるNI製FPGAを選定した。図2の写真は導入したCompactRIOの一部で、主にI/Oにより必要な情報の集積・制御用信号の送信を行っている。本研究所の実験は実験装置・加熱現場制御室・中央制御室がそれぞれ離れた場所にあり複数のオペレーターが遠隔で制御することが必要であるが、LabVIEWによる変数共有や信号の高速入出力により複数の場所からの詳細なフィードバック制御が可能となった。LabVIEWを用いることで、多地点での運用を達成し、本作品ではさらにシステムを拡張し遠隔に設置したコントローラを高速通信により制御している。

 

課題2-1に対しては、密度に関する情報を収集し、ガス封入量(ピエゾバルブの開閉用電圧)をコントロールすることにより密度を一定に保つことを目指す。プラズマの密度は封入ガス量に依存するが、その他にもプラズマ温度や加熱入力パワー、不純物密度、壁の温度、壁のガス吸着量など、未だ解明されていない要因も含め複雑な条件で成り立っている。このため密度と封入ガス量を単純に比例制御するのではなく、PID制御や独自の関係式で最適なフィードバックができるように拡張した。操作画面を図5に示す。
課題2-2の運転状況の監視のため、①異常状態を一目で確認でき、また異常ログを保存するプログラム、②出力パワー、アンテナ位置、実験情報等を常に監視できるグラフを表示するプログラム、③各アンテナについて現在の入射パワー、位置を一括制御するプログラムを製作し運用した。従来は異常を確認した場合人の手で停止していたが、このプログラムにより、あらかじめ異常後の行動をすべて決めておきこれを自動で対応させることに成功した。このシステム導入後は異常に対して迅速に対応できるようになり、これまで年に数回起きていた伝送路の絶縁破壊、水漏れ、電源の破損等の深刻な事故は起こっていない。

 

 

3-2.結果
プラズマ定常維持は、高い温度・密度のプラズマを維持することがより困難で研究としても意義があるため、加熱パワー(W)×維持時間(秒)である総加熱量(J)で評価する。本作品の制御システムを運用することで、これまでのフランスTore Supra装置のもつ総加熱量1.0GJを大きく更新する3.3GJ(48分)の世界記録を達成した。これまでの制御では達成しえなかった記録である。なお、実験結果や技術的な詳細についてはFusion Engineering and Design誌 101 (2015) 226-230ページに論文が掲載されている。本システムはFPGAを用いることで高速で安定した動作が実現し、加熱パワーのリソースに対して高いパワーを入射することができた。加熱パワーの増強は非常に高価な発振機の増設等が必要であるが、本システムを導入したことにより高効率化され、同じ発振機を用いて最大入射パワーが3.5MWから4.5MWまで上昇した。また、本システムを用いることにより多くの作業が自動化され、GUIにより開発者以外の技術スタッフにも操作が容易に行え、それまで実験中に機器の運転にかかりきりだった分を実験に関する議論や実験条件の最適化・解析にあてることができ、限られた実験期間にこれまで以上の成果を収めることができた。実験中の様子を図6に示す。

今後は、本システムを運用することで本装置の最終目標である3MW1時間、すなわち総加熱量10GJの定常運転の達成を目指して引き続き実験を行っていき、核融合炉の実現を目指した研究における長時間運転の分野をけん引していく。特に、最後の実験装置として国際協力で現在建設中のITERでは1000秒(16分)までの実験しか行われないため、長時間の運転実証・問題解決に向けて実験を行っていく。

 

 

著者情報:

Shuji KAMIO
核融合科学研究所
Japan

図1. 大型ヘリカル装置LHD(Large Helical Device)および真空容器内部
図2. システム概念図
図3. CompactRIO
図4. ガスフィードバック制御画面
表1. システム構成
図6. 実験中の様子
図5. 高周波加熱運転用システム画面