既存設備PXI組み合わせて、少量生産LSI向け検査システム構築

成田 信幸氏, 株式会社シスウェーブ システム・ソリューション事業部 技術担当部長(現・開発管理室)

 

"RF機能備える少量生産LSI向け検査システム構築する場合、コスト観点から、既存装置利用つつ、不足する装置だけ買いそれら連携させること現実アプローチなる。追加購入する装置、ならびに装置連携させる仕組みとしては、PXI最適選択肢だ。 "

- 成田 信幸氏, 株式会社シスウェーブ システム・ソリューション事業部 技術担当部長(現・開発管理室)

課題:

RF機能を備える少量生産のLSI向けに、非常に高価なLSIテスターのアナログ計測用オプションを使用することなく、検査システムを短期間で構築する。

ソリューション:

安価なRF信号発生用PXIモジュールを購入し、それを既存のLSIテスター、スペクトルアナライザと組み合わせて検査システムを構築する。制御/データ処理のプログラムはLabVIEWによって開発することで、開発工数を最小限に抑える。

【背景】


LSIは、本質的には大量生産を前提としたものである。しかし、実際には必ずしも大量に生産するわけではないのに、回路の実装形態として、LSI化を選択せざるを得ないこともある。端的な例としては、汎用の電子部品やICをディスクリート構成で使用するのでは、実装スペースや消費電力の面で機器の要求仕様を満足できないというケースが挙げられる。このような場合、それらの問題を解決するために、必要な機能を備えるASICを設計することになる。



このような背景からLSIの少量生産を選択した場合、大きな課題に直面することがある。その課題とは、そのLSIのテスト(出荷検査)をどのようにして実現するのかということである。

 

現在、LSIについては、設計/製造の水平分業化が進んでいる。大量生産の製品の場合でも、出荷検査は、そのLSIを設計したのとは別の会社(テストハウスなど)に委託されることが多い。ただ、テストハウス側にとって、少量生産品の検査を請け負うのはありがたいことではない。LSIの設計/開発にコストがかかるのと同様に、テストの開発、検査の実施にもコストがかかるので、大量に検査を請け負うことが前提でなければ、採算がとれなくなる可能性があるからだ。

 

この事例で紹介する機器メーカーは、まさにこのような課題に直面していた。そのメーカーは自社の機器向けにLSI(ASIC)を設計した。その生産数量は月に2000~3000個のレベルにとどまる。そのLSIの構成は、大まかに言えば図1に示すようなものだった。CPUとロジック回路で構成されるデジタルブロックと、4つのRFミキサー回路で構成されるアナログブロックを備えるデジタル/アナログ混載型のデバイスである。デジタルブロックとアナログブロックの機能は基本的に独立しており、ミキサー回路は単機能/独立の回路ブロックとして存在していた。

 

また、このLSIは、最終的な機器においてベアチップの状態で使用し、特殊な接続方法で実装することになっていた。そのため、LSIの最終検査は、ウェーハの状態で行う必要があった。この検査システムの開発と検査を受託したのが当社(シスウェーブ)である。

 

【課題】


当社は、少量/多品種の開発に対応可能な検査サービスを包括的に提供する「テストセンター事業」を1つの柱としている。テスト用ボードやプローブカードの設計、テストプログラムの開発だけでなく、パッケージ品/ウェーハの出荷検査も含めて受託している。そのための設備として、LSIテスター(ATE:LSI用の自動検査装置)のほか、クリーンルーム、プローバ、サーモストリーマなども保有している。ただ、従来は主にデジタルLSIのテストをターゲットとしており、LSIテスターについても、アナログ計測用のオプションは所有していなかった。


このプロジェクトで最も大きな課題になったのは、いかに現実的なコストで検査システムを構築するかということだった。LSIテスターのアナログ計測用オプションは非常に高価であり、すぐに数千万円のオーダーに達してしまう。そこで、手持ちの装置を利用しつつ、不足するものだけを買い足すことで、低コストかつ短期間のうちに検査システムを構築しようと考えた。具体的には、LSIテスターとスペクトルアナライザはすでに保有していたので、信号発生用の装置と各装置を連携させるための仕組みを追加で用意することにした。

 

【ソリューション/効果】

上述したアプローチで検査システムを構築するために、当社はナショナルインスツルメンツ(NI)のPXI製品を導入することにした。当社が構築した検査システムは図2に示すようなものである。このシステムは図3のような要素から構成されている。図3の左上が既存のLSIテスター(横河電機の「TS6000H」)、左下がNIのPXIシャーシ、右上がウェーハ検査のためのプローバ、右下が既存のスペクトルアナライザである。PXIシャーシには、1.3GHzまでのRF信号を発生できるモジュール「NI PXI-5650」を2台配置している。各装置の連携はGPIBを利用して行う。

 

実際の検査では、まずLSIテスターを使用して、通常のデジタルLSIの場合と同じ要領でデジタルブロックのテストを行う。続いて、PXIとスペクトルアナライザを使用してアナログブロックのテストを実施する。具体的には、通常のミキサーのテストと同様のことを行う。すなわち、ミキサー回路に周波数の異なる2つの信号を入力し、その出力を評価するということである。


ミキサー回路では、周波数がそれぞれA、Bの2つの信号を入力すると、A+B、A-Bの周波数成分を含む出力信号が得られる。そこで、1つのミキサー回路に対して、2台のRF信号発生器(NI PXI-5650)から周波数の異なる信号を入力し、その出力をスペクトルアナライザに取り込んで、周波数応答(周波数とゲイン)を測定する。その結果をPXIに引き渡し、データ処理を行って、値が許容範囲内にあるか否かを判定する。その判定結果は、PXIのデジタルI/Oから、LSIテスターのI/Oピンにデジタル信号として引き渡される。例えば、許容範囲内にあればデジタルI/Oからハイを出力し、許容範囲を外れていればローを出力するといったルールを定めておき、その結果を受け取ったLSIテスターが最終的な合否判定を行うという仕組みである。LSIは4つのミキサー回路を搭載しているので、リレーの切り替えによってRF信号線を制御し、それぞれに対して計測を行う。なお、図3ではLSIテスターとPXIの間を15ビットの信号線で結んでいるが、その内訳は制御用が5ビット、データ取得用が10ビットとなる。ここで言うデータ取得とは、スペクトルアナライザでの測定値そのものをLSIテスターに取り込むという意味である。このデータ取得は評価/デバッグ用のものであり、実際の検査では使用しない。


また、このプロジェクトでは、RF入出力信号を扱うために、プローブカード用の専用基板も開発した(図4)。RF信号線には同軸ケーブルを使うとともに、コイル、コンデンサ、バランなど、RF計測に必要な外部部品を実装している(図5)。なお、ミキサー回路に入力する信号の周波数として、顧客からは1GHz帯を要望された。だが、ウェーハ検査ではプローブ(針)による信号の減衰が大きく、実現が困難であったため、入力信号の周波数は400MHz帯にとどめた。

 

アナログテストの検査系は、1カ月もかけることなく立ち上げることができた。このように短期開発を実現できた要因は、PXIとLabVIEWを利用して検査システムを構成したことだ。PXIでは、信号の生成、システム制御に加え、取得したデータを基に合否判定を行うための処理を行う。これらの処理はLabVIEWで開発したプログラムによって実現した。PXIのプログラミング担当者は、PXIとLabVIEWによる開発作業を行うに当たり、まずはNIが提供する3日間のトレーニングを受講した。その後、実際にLabVIEWによる開発作業を進め、1週間後にはシステムエラーが発生しない状態まで持っていくことができた。以降、デバッグ作業を2~3週間かけて行い、計1カ月で検査系を立ち上げることができた。この実績から、短期開発という点でPXI/LabVIEWが大き く寄与したことがわかる。まったく使用経験のなかった人が1カ月でシステムを立ち上げられたことは高く評価できる。

 

【今後展開】

現在、いわゆるSoCやASICをはじめ、アナログ/RF回路を備えるLSIとしては実に多種多様なものが開発されている。それぞれの仕様に対応して、アナログ/RF計測に必要な装置の仕様も異なる。大量生産品ばかりを扱うのであれば、必要に応じて、テスターメーカーが供給している高価なオプションを購入するという考え方もあり得るのかもしれない。しかし、少量生産品についてはコストの理由から同じようなアプローチをとることはできない。今回の事例のように、手持ちの装置も活用して、ベンチ評価を発展させたような形態で検査を実施するという手法が現実的な解だと言えよう。このようなアプローチにより、コストの問題も含めた対応策を提案していくことが、当社のような企業には求められていると考えている。


このアプローチで、検査システムの構成要素としてまず最初に候補に挙がるのはPXIだ。その理由は、安価であること、短期開発を実現できること、そしてさまざまなニーズに対応可能なモジュールのバリエーションが豊富に用意されていることである。


現在、当社ならびに当社が提供しているサービスの知名度は必ずしも高くない。今回の事例などを通して、少量生産品が抱える検査の課題は解決可能なものであるという事実を広く知ってもらいたいと考えている。

 

著者情報:

成田 信幸氏
株式会社シスウェーブ システム・ソリューション事業部 技術担当部長(現・開発管理室)

図1. 検査の対象となるLSIの概要
図2. 検査システムの外観
図3. 検査システムの構成
図4. テストヘッドに配置された専用基板
図5. プローブカードの構成