ソーラーパネルとcRIOを用いた斜面崩壊監視・予測のための野外自然電位計測システム

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"無人での長期モニタリングが可能で、最大集録チャンネル数が16chから64chになり、データのS/N比も約30倍向上した。"

- 矢部 修平 氏, 千葉大学大学院 理学研究科地球生命圏科学専攻

The Challenge:
従来室内実験で用いていた計測システムは野外観測には非対応であり、集録チャンネル数不足およびデータS/N比不足の問題もあった。また野外観測では新たに計測システムへの自律的電力供給が必要とされる。さらに野外観測中に想定される降雨イベントや停電イベントに耐性を持ち、設置場所に自由度のある長期の連続集録を実現するシステムを構築したい。

The Solution:
NI cRIOシステム(NI cRIO-9025、NI cRIO-9113、NI-9206)とソーラーパネルを選定して、。cRIOにプログラムをし、スタートアップファイルを作成することで従来用いていたPCでの集録を止め、スタンドアロンで稼働するシステムを作成することにで、停電などの影響によるデータの欠測をなくす事を目指した。 自律的電力供給可能な堅牢なスタンドアロン野外観測システムを構築できたことにより、無人での長期モニタリングが可能となり、データログに関するユーザー監視・制御が可能になった。また、最大集録チャンネル数が16chから64chになり、データのS/N比も約30倍向上した。

Author(s):
矢部 修平 氏 - 千葉大学大学院 理学研究科地球生命圏科学専攻

【背景】

斜面崩壊とは集中豪雨などで増加した地下水の影響を受けて斜面が不安定になり、地中のすべり面を境に崩壊する現象である。近年、集中豪雨の頻度が増加するにつれ、斜面崩壊の発生件数も増加する傾向にある。しかし、従来の斜面崩壊の研究では崩壊そのものや崩壊発生後の復旧対策に焦点が当てられており、現在のところ崩壊発生を事前に予知・予測して斜面災害を軽減できる十分な状況にはないと言える。斜面崩壊による被害を軽減するためには斜面崩壊過程の理解をもとに、斜面崩壊の監視・予測をする計測システムを開発することが必要である。そのため我々は、斜面崩壊の早期予測システムの開発を目的とし、自然電位法によるアプローチを試みている。自然電位法とは、地下で自然に発生した電位差を、地面に設置した電極で測定する手法である。この手法は地面に電流を流さない受動的な測定法であり、長期観測に適している。自然電位は地下水の流動に密接に関係しており、地表での測定で地下の広範囲の土中水分を把握できる可能性が高く、受動的な計測であるため低コストといったメリットがある。これまでに、人工降雨下での室内斜面崩壊実験(図1)や小型水槽実験といった室内実験の結果から、自然電位法を用いた地下水モニタリングが有望であることがわかりつつある。

しかし、室内実験は二次元的で、土層は均質なものを用いているため、室内実験のみでは限界がある。そこでフィールド実験に臨むため、実斜面多点観測に適したデータ集録システムの開発が必要である。

 

図1 左図:人工模型斜面の写真。この斜面に一定量の雨を降らせて、斜面崩壊を発生させる。右図:実験装置配置図。電極を70cmの層厚で積んだ砂に赤丸の位置で設置。斜面最頂部に設置した基準電極との間の電位差を測定する。自然電位変動と水や土層変位との関係性を調べるために、間隙水圧計(水色丸)とマーカー(黄丸)を設置し計測を行っている。

 

【課題】

従来室内実験で用いていた計測システムは野外観測には非対応であり、集録チャンネル数不足およびデータS/N比不足の問題もあった。また野外観測では新たに計測システムへの自律的電力供給が必要とされる。さらに野外観測中に想定される降雨イベントや停電イベントに耐性を持ち、設置場所に自由度のある長期の連続集録を実現するシステムを構築したい。※1

※1 2010年8月にインドネシアPelabuhan Ratuの斜面崩壊地帯に、cDAQシステムを用いて自然電位観測の試験設置を行ったが、観測斜面から電気のある観測小屋までケーブルを引くコスト及びその作業時間が多くかかった。またインドネシアでは停電が頻繁に発生し、それによるデータの欠測が多発する現状がある。

 

【ソリューション】

1、システム構成

野外観測に最適なハードウェアに、屋外観測ハードウェアとして実績のあるNI cRIOシステムとソーラーパネルを選定した。cRIOにプログラムをし、スタートアップファイルを作成することで従来用いていたPCでの集録を止め、スタンドアロンで稼働するシステムを作成することにで、停電などの影響によるデータの欠測をなくす事を目指した。そのために必要な機器として以下のものを選定した。

<< データ集録用ハードウェア >>

NI cRIO-9025、 NI cRIO-9113、 NI-9206

非分極電極(自然電位測定用)

データログ用USBストレージ

 

                      

NI cRIO-9025 NI cRIO-9113 NI-9206       非分極電極

<<電力供給>>

ソーラーパネル:三菱PV-MX185HA

12Vバッテリー:GSYUASA製ディープサイクルバッテリーEB-100

チャージコントローラー:North Power社製TS-MPPT45

 

    

ソーラーパネル                 12Vバッテリー           チャージコントローラー

cRIOへの電力供給を行うための装置の接続図を図2に示す。ソーラーパネルとバッテリーをチャージコントローラーに接続して制御することで、cRIOへの自律的電力供給を可能にした。また、ソーラーパネルによる発電であるため、設置場所に自由がきく。これにより、インドネシアでの設置事例のように電気の通っている場所まで電極ケーブルを延ばす必要がなくなり、コスト低減・作業時間の短縮にも繋がる。

図2 直列につないだ3枚のソーラーパネルで発電をし、チャージコントローラーを用いて

4つのバッテリーの充電を行う。バッテリーから24VDCでcRIOへと電力を供給させる。

データ集録モジュールはNI 9206を選択し、これにより最大64chでの多点データ集録が可能となった。また、従来システムに比べて集録データのばらつきが小さくなり、より質の良いデータが取れるようになった(図3参照)。

図3 水槽実験装置を用いて、同時計測を行った結果。新システム(左図)は従来システム(右図)よりもS/N比が約30倍良いことが確認された。

 

cRIOの自律的電力供給のために、チャージコントロール可能なソーラーパネルシステムを構築した。2011年8月3日より、千葉大学理学部屋上にcRIOシステムを試験設置し、稼働状況を確認している。図4は集録データと日照時間の関係であり、夜間や天候不良など日照の少ない条件でも連続稼働していることが確認されている。

図4 上図:粘土に設置した電極で計測された自然電位値(mV)。下図:千葉市の一時間ごとの日照時間(hour)。連日で日照時間の少なかった日(8/19-22、9/20-21)でも欠測なく収録可能な事が確認された。(8/15-16はUSB容量がいっぱいになったことによる欠測)

 

2、アプリケーション詳細

構築したプログラムについて説明する。NI-9206に接続した電極から得られるデータをcRIO-9113に内蔵されているFPGAチップで計測する。そのデータをDMA FIFOでcRIO-9025へと渡し、その中でファイル処理を行う。集録ファイルは解析しやすくするため、一時間ごとに作成し、集録したデータファイルはcRIO-9025のUSBポートに接続したUSBストレージ内へと保存するようにする。これにより長期間のデータ集録を可能とした。そしてcRIO-9025にこのプログラムのスタートアップファイルを作成することにより、バッテリーからDAQへ電力が供給された時点で集録が自動開始するスタンドアロンの集録システムとした。集録中はPCによる制御を行わないため、ユーザー側が任意のタイミングで集録を停止できるように、cRIO-9025に付属しているUser Switchをオンにすることで集録を停止できるようにした。また集録の状況を目視で確認できるようにするため、こちらも付属しているUser LEDのパターンを用いて稼働状況を確認できるようにした(表1参照)。LEDのパターンによりUSBドライブの容量が目視で確認できるため、ドライブの交換時期を知ることができ、極力少ない時間のデータ欠測で集録を続けることができることが可能となった。

 

表1 稼働状況に対応するLED動作

稼働状況

LED動作

正常実行中

緑LED点灯

USB残量30%以下

オレンジLED点灯

USB残量10%以下

オレンジLED点滅

エラー出力

緑LED・オレンジLED交互点滅

USB交換可能

緑LED点滅

停止中

消灯

 

(a)

 

(b)

 

(c)

図5 (a)NI cRIO-9025上で作成したメイン集録VIのフロントパネル。(b)メイン集録VIのブロックダイアグラム。(c)cRIO-9113に作成した複数チャンネル集録VIのブロックダイアグラム

 

3、結果

・自律的電力供給可能な堅牢なスタンドアロン野外観測システムを構築できたことにより、無人での長期モニタリングが可能となった

・データログに関するユーザー監視・制御が可能になった

・最大集録チャンネル数が16chから64chになり、データのS/N比も約30倍向上した

Author Information:
矢部 修平 氏
千葉大学大学院 理学研究科地球生命圏科学専攻
Japan

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