医学教育におけるLabVIEWとMultiSimを用いた医療機器の原理習得とe-learningとの融合をめざした実習

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"従来手の届かずブラックボックスとなってしまっていた心電計の内部をLabVIEW上でのシミュレーションにより「見える」形にし、さらに実測した心電波形の生データをAD変換器を用いてPCに集録し、周波数解析等を行うことで心電波形の理解を図りました。"

- 石原 美弥 氏, 防衛医科大学校 医用工学講座 教授

The Challenge:
心電計測の原理である差動増幅器について学ぶため、従来から実機を用いた計測の実際と、アナログ回路を用いた電気計測実験を行ってきた。しかしながら、アナログ回路上の差動増幅器と実際の心電計との間のギャップは大きく、心電計は依然学生にとってブラックボックスのままであった。また心電計測の原理を理解する上で最重要な生体信号と雑音それぞれの電気的特性(振幅特性と周波数特性)については教科書に頼るのみであり、提示できる教材が限られていた。

The Solution:
上記の課題を解決するため、2010年よりLabVIEWとMultiSimを導入し、多角的なアプローチにより学生の理解を深める取り組みを行った。

Author(s):
石原 美弥 氏 - 防衛医科大学校 医用工学講座 教授

【背景】

本大学校では、医学科学生第3学年に対して、診断と治療に関する医用工学実習を行っている。近年医療機器は発展が著しく医師にとってブラックボックス化する傾向にあるが、正確かつ安全な診断を行うためには、その基礎となる機器の原理を習得することが必要不可欠である。特に近年、医療事故の増加に伴い、医療安全の観点からも本課題は急務となっている。本実習ではこれまで、主要な診断用機器である「心電計」をテーマのひとつとし、その原理となる差動増幅器について実機とアナログ回路を用いた実習を行ってきた。差動増幅は心電計測以外の生体電気計測(脳波など)にも広く利用されており応用性が高く重要なテーマである。しかしながら後述するように、従来アナログ回路と実機との間には大きな隔たりがあった。今回その解決法としてLabVIEW、MultiSimによるシミュレーション等を導入することにより、これまでブラックボックスであった機器の中身が学生にとって「わかる」ようになった。以下に本実習での取り組みを紹介する。

 

【課題】

心電計測の原理である差動増幅器について学ぶため、従来から実機を用いた計測の実際と、アナログ回路を用いた電気計測実験を行ってきた。しかしながら、アナログ回路上の差動増幅器と実際の心電計との間のギャップは大きく、心電計は依然学生にとってブラックボックスのままであった。また心電計測の原理を理解する上で最重要な生体信号と雑音それぞれの電気的特性(振幅特性と周波数特性)については教科書に頼るのみであり、提示できる教材が限られていた。

一方従来のアナログ回路を用いた実習では、各自サーキットボードに差動増幅回路を作成し、ファンクションジェネレータからの信号を回路に入力、出力信号をオシロスコープで観測した。この計測から、差動利得(信号の増幅率)、逆相利得(雑音の除去率)、弁別比(差動増幅器のトータルの性能の指標)を求める課題に取り組んでいたが、実測のみにとどまっていたため、得られた結果の理論値との比較、誤差の検討は困難であった。また十分な弁別比が得られなかったときの回路のバランス調整は回路が複雑化するため一部の学生しか課題をクリアできず、差動増幅回路の動作原理を理解する上で重要な要素であるにもかかわらず多くの学生が消化不良を起こしていた。

 

【ソリューション】

上記の課題を解決するため、2010年よりLabVIEWとMultiSimを導入し、図1に示すような多角的なアプローチにより学生の理解を深める取り組みを行った。具体的な内容を以下に紹介する。

 

  1. . ソリューション-1

心電計の内部(ハードウェア)について従来ブラックボックスであった部分を、LabVIEWプログラムを用いたシミュレーションを行うことにより、電極から取りだした実際の生体電気信号(心電波形+ハム雑音、このとき心電波形は雑音に埋もれて見えない)を可視化し、それが心電計内でどのように処理され、目的とする心電波形のみが取りだされるのかというプロセスを学生の目に「見える」形にした。さらに実測した心電波形のデータ(アナログ信号)をAD変換器とLabVIEWプログラムを用いてパソコンに集録し、振幅解析や周波数解析の関数を用いることで、生体信号と雑音それぞれの電気的特性に関する生のデータが得られた。雑音はハム雑音の他、比較的高周波成分を多く含む筋電図波形や低周波成分がメインの呼吸性変動などがあり、種類によって電気的特性が異なる。このような定量性のあるデータが得られることで、学生は生体信号と雑音の違いを理解し、特性の違う雑音それぞれにどう対処したらよいかを、(例えばフィルターで雑音を除去できるか、可能な場合中心遮断周波数はどのくらいに設定したらよいか、またそのフィルターを使った場合本来の生体信号に影響しないか、等)理論的に考えることができ、そこから解決策を導き出すことが可能となったことは大変有意義であった。

 

以下に関連する課題の一部を紹介する。

 

 

  1. . ソリューション-2

アナログ回路実習では、従来のサーキットボードを用いた差動増幅回路の作成と電気計測に加えて、同じ回路をMultiSim上に作成し、計測と同じ条件でシミュレーションすることにより実験の理論値を瞬時に取得できるようになった。このシミュレーション結果により学生は実測値と理論値の比較が行えるようになり、自作した回路の動作確認のみならず、実験研究において重要な実験誤差について考察することが可能となった。さらに、差動増幅回路のバランス調整についてはMultiSim上に作成した回路の回路定数を自在に変えることにより、機械操作が苦手な学生でも難なく理解することができた。

 

以下に関連する課題の一部を紹介する。

 

 

  1. . e-learningとの融合

上記の実習の実施においては本大学校が導入しているBlackboard e-leaning systemを利用し、教官と学生間で双方向に情報のやりとりを行った。例えば、教官側からは学生に対して教材としてLabVIEWやMultiSimのプログラムを配布したり、シミュレーション用のデータ(電子ファイル)を提供し、学生はBlackboardにアクセスし、これらをダウンロードして課題に取り組んだ。学生が作成したLabVIEWのプログラムや実測した心電波形やその解析結果はBlackboardの「課題提出」ツールを利用して教官に提出、これをもとに教官は学生の実習の進捗状況を把握するとともに、模範的な結果や間違いやすい結果が送られた場合はリアルタイムでそれをプロジェクタに映し出し、学生の効率的な実習を支援した。

 

【結果】

今回の取り組みを通じて学生のレポートなどから、心電計測の原理すなわち差動増幅回路の動作原理を学生が深く理解した様子が伺えた。従来手の届かずブラックボックスとなってしまっていた心電計の内部をLabVIEW上でのシミュレーションにより「見える」形にし、さらに実測した心電波形の生データをAD変換器を用いてPCに集録し、周波数解析等を行うことで心電波形の理解を図りました。こちらが指示しない課題(応用編)にまで自主的に取り組む学生も見られた。従来大多数の学生がギブアップしていたアナログ回路実習の一部の課題も、MultiSimを用いてシミュレーター上でパラメータを変更することにより効率的に取り組むことができた。これらの実習はLabVIEW及びMultiSimで作成されたプログラムが電子ファイルベースの教材となる特徴を生かしたe-learningシステムによる教育支援との融合が可能であった。「人」を相手にする医師を育てる立場から、これらシミュレーションベースの実習を通じて得た知見をいかに実際の診療に活かしていくかが大切である。今後本実習を活かしてより良い教育につなげていきたい。

Author Information:
石原 美弥 氏
防衛医科大学校 医用工学講座 教授

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