極超音速エンジン開発における TCP/IP を用いた同時多点圧力計測

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"LabVIEW により作成した本プログラムで、圧力計測が可能になったことにより、他の計測機器で計測されている温度や流量といったデータを一つの計算機でまとめて取り扱うことが可能となった。"

- 小川 友岳 氏, 東京理科大学大学院 工学研究科 機械工学専攻

The Challenge:
飛行試験機に搭載される計測装置には、機器の小型軽量化が強く求められており、従来の計測機器は大型で搭載には不適であることから、新規の計測機器を採用することになった。新規に採用された計測機器は、バスとしてイーサネットを用いてデータ集録を行うことができるためイーサネットによる TCP/IP を用いたプログラムを作成する必要があった。

The Solution:
LabVIEW 8.20を用いて計測プログラムを作成し、極超音速ターボジェットエンジンの地上燃焼試験で実際に運用して、エンジン各部の圧力計測を適切に実施できることを確認した。

Author(s):
小川 友岳 氏 - 東京理科大学大学院 工学研究科 機械工学専攻

背景:
現在、独立行政法人宇宙航空研究開発機構では、将来の超音速・極超音速航空機用エンジンとして、液体水素を燃料とする極超音速ターボジェットエンジンの研究開発が進められている。このエンジンは、極超音速での飛行を可能とするために、空気予冷却器と呼ばれる熱交換器を持つのが特徴である。空気予冷却器において、エンジンに流入する高温高圧空気を、極低温の液体水素燃料で冷却することにより、Mach 数5以上の飛行速度を実現することが可能になる。日本における極超音速ターボジェットエンジンの開発は、1990年に旧宇宙科学研究所においてスタートし、約10年間の地上燃焼試験フェーズを経た後、2003年に、推力100 kgf級の飛行実験用サブスケールエンジン開発が始まった。これまでに、要素単体試験が終了し、2007年度にはエンジン全体システムの総合地上燃焼試験が、2008年度には第1回目の飛行試験が計画されている。

飛行試験機に搭載される計測装置には、機器の小型軽量化が強く求められる。圧力計測において従来の地上試験で使用していた計測機器(PSI 社製 system 8400)は大型(高さ312×幅483×奥行き533 mm、重量35.6 kg)であり搭載には不適であることから、新規の計測機器を採用することになった。圧力計測機器として、フォーミュラカー開発にも用いられている CANdaq (高さ29×幅69×奥行き105mm、重量0.23kg)と小型電子圧力スキャナ ESP-64HD/DTC を用いることとした。重量に関しては、約150分の1程度である。図1に飛行試験機を示す。この飛行試験機は、大気観測用大気球によって高度40 km程度まで高度を上昇した後、気球から切り離され、自由落下により超音速飛行状態を模擬する。下部にはエンジンが取り付けられており、計測機器は上部の計測機器収納スペースに収納されなければならない。


課題:

新規に採用された計測機器は、バスとしてイーサネットを用いてデータ集録を行うことができる。従来の機器(system8400)のバスは GPIB を用いていており、計測プログラムも GPIB 用に作られていた。そのため今回は新規にイーサネットによる TCP/IP を用いたプログラムを作成する必要があった。また、計測機器の制御に用いるコマンドに関しても、コマンドとパラメータ、通信が正常に行われたか否かを確認するパリティコードを作りなおす必要があり、新たにコマンドの生成も行うプログラムを作成する必要があった。

飛行試験では搭載計算機(NI 社製 CompactRIO)に組み込まれて圧力計測を行う。そのため、サブ VI 化を想定したプログラム作成となった。通常の使用では常時圧力データをモニタリングできるようにし、サブ VI となったときには、メイン VI から計測の指令があった時のみデータを通信、記録するようなプログラムとした。

主に解決すべき問題は以下の通りである。
・イーサネットを用いたデータ通信
・計測器制御のためのコマンド生成
・イーサネットを用いたデータ集録


ソリューション:

【システム構成】

ソフト NI 社製 LabVIEW 8.20 計測機器制御、データ集録
ハード NI 社製 NI cRIO-9104 搭載計算機
NI 社製 NI PXI-8196 地上計算機
Chell 社製 CANdaq データ転送・A/D変換
Chell 社製 QD-VP バルブ操作
PSI 社製 ESP-64 HD 電子圧力スキャナ(最大64点)



システム構成の概念図を図2に、試験模型を図3に示す。エンジン各部に備えられた圧力計測点の圧力は圧力導管を介し圧力スキャナ(ESP64HD)に届く。スキャナで計測された最大64点の圧力信号(アナログ出力)はスキャナコントローラに送られる。スキャナコントローラで A/D 変換が行われ(分解能16ビット)、デジタル出力がイーサネットを介し搭載計算機(cRIO)に送られる(サンプリング周波数10 Hz)。このデータはさらにイーサネットを介し、地上計算機(PXI)に送信され、別機器で計測されるデータと一括して記録される。

【結果】 

LabVIEW 8.20を用いて計測プログラムを作成し、極超音速ターボジェットエンジンの地上燃焼試験で実際に運用して、エンジン各部の圧力計測を適切に実施できることを確認した。

図4に計測プログラムのフロントパネルを示す。フロントパネル上で、計測器の IP アドレスや通信を行うポート番号を指定すると、計測機器と TCP/IP 通信が行える。また。コマンドはプルタブから選択できるようになっており、必要に応じて、コマンドの送信が可能となっている。圧力データは随時、右側のグラフで確認することができる。

イーサネットを使用し TCP/IP 通信を利用することにより、遠隔からの制御、データ取得が可能となった。これは地上における試験においても、燃焼試験のように供試体を遠隔操作しなければならない場合に、とても有効である。今回試験を行ったエンジンは水素を燃料として用いているため、安全確保に十分に気を配らなければならない。この点においても、イーサネットを用いた計測機器の制御、データ集録は非常に有効である。さらに、多くの実験施設においてイーサネットはすでに敷設されている。実験を行うにあたり、新たにケーブルを用意し、引き回さなくてもよいため、実験準備や撤収作業にかかる時間が大幅に短縮された。

今回使用した CANdaq には、メーカ供給の計測プログラムが付属していた。ただ、付属プログラムでは、圧力計測のみが可能であったため、温度や空気流量といったものはまったく別のプログラムで計測する必要があった。一方、LabVIEW により作成した本プログラムで、圧力計測が可能になったことにより、他の計測機器で計測されている温度や流量といったデータを一つの計算機でまとめて取り扱うことが可能となる。これは LabVIEW で作成したプログラムで制御、計測できる計測機器が多岐に渡ることによる。そのため、データ集録の同期性も確保でき、さらには計算機の数を減らすことができる。これは、飛行試験では重要課題である軽量化、省スペース化を容易とするものである。

さらに本プログラムはサブ VI 化を想定して作成したものであるため、汎用性が高いプログラムとなった。したがって、今回のようなエンジンの燃焼試験に限らず、前述のフォーミュラカーの開発や航空機機体の開発などにも、すぐに適用可能であると考えられる。特に PSI 社製の電子圧力スキャナ(ESP-64HD)は同時に64点の圧力計測が可能といった非常に高い計測能力を持つものであり、このような機器を LabVIEW で作成したプログラムによって、イーサネットを介し制御や計測が可能となったことは、非常に有意義なことである。

プログラム作成においても、標準のアイコンとして TCP/IP 通信に関するものが用意されていたため、他の言語(C言語やVBなど)でプログラムを作成するより大幅に準備時間を短縮できた。また、制御におけるコマンド生成についても、バイナリ- ASCII の変換が簡単に行えたことや、パリティの生成が効率的に行えたことで、時間の短縮に大きく寄与した。コマンド作成に関しても VI を作成することで有機的に問題を解決することができた。


図1. 飛行試験機(下部:極超音速エンジン)


図2. 計測システム概念図


図3. 試験模型(左:上流側から全体、右:コアエンジン部)


図4. 計測フロントパネル


Author Information:
小川 友岳 氏
東京理科大学大学院 工学研究科 機械工学専攻
Japan

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