建築構造物の層間変位計測用無線システム

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"開発プラットフォームとしてLabVIEWを使用することで、開発期間2か月(おおよそ従来法の1/3以下)でのシステム構築を達成した。"

- 佐藤 摩弥 氏, 早稲田大学 理工学術院 先進理工学研究科 ナノ理工学専攻2年

The Challenge:
下記の課題をクリアする実用的な層間変位計測システムを構成する。

  • センサ自身の回転成分を分離でき、精確な変位を計測できる層間変位センサユニットの開発
  • 建物のあらゆる場所の層間変位を計測できる多点計測型無線システムの構築。その際に時間同期および暗号化によるデータ送受信が可能であること。
  • 計測データを演算することによって、建物の健全性をリアルタイムに表示できる機能。
  • 地震発生時に地震波形だけを選択的に記録し、最小限の記憶容量にできる機能。

The Solution:
開発プラットフォームにLabVIEWを使用し、層間変位センサシステムを開発。また無線データ集録機のNI-WLS 9205を採用し、建築構造物のあらゆる場所において精確な層間変位計測を低コストで実現できるようになった。

Author(s):
佐藤 摩弥 氏 - 早稲田大学 理工学術院 先進理工学研究科 ナノ理工学専攻2年

【背景】
 地震や経年劣化による建築構造物の損傷を即座に自動的に判断できるようなセンサシステムに対する期待が近年高まっている。設計時に意図した通りの性能を有しているかを第三者が客観的に判断できる、あるいは地震で損傷を被った建物がその後の余震に耐えうるかどうかを的確に判断できるからである。地震時に壁材のひび割れや梁材の塑性変形が生じた階層は、地震後に元の位置に戻らず、残留変位を生じるからである。これは地震動に応じた天井と床の相対的な水平変位、すなわち層間変位を精確に測定することによって達成される。建築基準法が定める建築物の安全性も層間変位によって定められており、層間変位は建物の損傷度を判断するうえで最も直接的な指標になる。しかしながら、実建物の各階層間の層間変位を、リアルタイムに、非接触型で直接計測できる実用システムは考案されていない。

 地震時および地震後の層間変位の履歴をリアルタイムで精確に計測することが可能になれば、建物における損傷度の定量評価が可能になる。さらに、無線ネットワークを構築することで、センサの設置場所に制約がなくなり、多点同時計測に対する自由度が向上する。これにより、これまでは不可能であった、建物の「構成部材レベルでの損傷部位の特定」が実現できる。そこで私は建物内部における層間変位を多点計測するための無線による層間変位計測システムの開発に着手した。

【課題】
 一般に、地震時の建物層間変位のリアルタイム計測は、次の理由で難しいとされている。加速度センサを二重積分して変位を算出する方法では、原理的に加速度の低周波数成分が計測できないので、積分誤差が無視できない。ビデオカメラの画像解析によって層間変位を求める方法では、地震動にともなってカメラ自身が振動して基準点になりえないため測定誤差が大きくなる。
 一方、センサシステムは、設置場所の制約や外観上の問題がない無線型システムである必要がある。すでに、無線センサシステム開発を対象とした「MOTE」と呼ばれる無線データ収録機が市販されている。しかしながら、「モート」には、(1) AD変換の分解能が10ビット程度であり微小振動に対する分解能が不足する、 (2) TinyOSによるプログラムが必要で専門知識が必要である、(3) 開発したセンサをネットワーク接続するためのインタフェースを独自開発する必要がある、といった問題点があり、システム開発が容易でない。

そこで私は下記の課題をクリアすることで実用的な層間変位計測システムが構成できると考えた。

・センサ自身の回転成分を分離でき、精確な変位を計測できる層間変位センサユニットの開発
・建物のあらゆる場所の層間変位を計測できる多点計測型無線システムの構築。その際に時間同期および暗号化によるデータ送受信が可能であること。
・計測データを演算することによって、建物の健全性をリアルタイムに表示できる機能。
・地震発生時に地震波形だけを選択的に記録し、最小限の記憶容量にできる機能。

ソリューション
【システム構成】
 層間変位センサユニットの構成を図1に示す。半導体位置検出素子(PSD)とレンズを組み合わせたセンサユニットを床に、変位計測ターゲットとしての赤外LED光源を天井に固定することで水平方向の層間変位を計測する。センサユニット自身の回転誤差を除去するために、2台のPSDはそれぞれX方向およびY方向に角度αで傾斜配置される。これら3台のPSD変位計で同時計測したデータをリアルタイムに演算することによって、2方向の層間変位(δx, δy)、2方向のセンサ設置部の傾斜角(θx, θy)、および鉛直方向のねじれ角ψをリアルタイムに計測する。なお筺体は本学機械工作実験室で製作した。


図1 層間変位センサの構成; (a)鳥瞰図、(b)XZ平面図、(c)実配置図

 センサユニットに搭載されたオンボード演算回路によって1個のPSDから2電圧出力(X, Y)が得られる。は感度調整用でPSD出力電圧の総和である。得られた変位(X, Y)は、PSD受光面における集光スポットの座標であり、実際の層間変位ではない。しかしながら、3個のPSDから出力される合計6個の変位出力を比較演算することにより、このPSD出力から層間変位(δx, δy)、センサ設置部の傾斜角(θx, θy)、およびねじれ角ψを算出することができる。
層間変位センサからの6電圧出力は、NI-WLS 9205でディジタル信号に変換され、無線でデータセンターに送信される。地震動を詳細に観察するためにはDC~100Hzまでの計測を実現する必要があるが、NI-WLS 9205は分解能16ビット、サンプリングレート250 kS/秒の性能を持つため、地震動を十分な精度で収録できた。
 データセンターPC上で動作する LabVIEWアプリケーションのフロントパネルを図3に示す。図3(a)に示す演算用サブVIでは、層間変位センサからの5つの入力電圧を変換式にしたがって演算し、層間変位(δx, δy)と角度(θx, θy, ψ)を出力する。図3(b)に示すメイン制御VIでは、層間変位δ、センサ設置部の角度成分θ、鉛直方向のねじれ角度ψをリアルタイムにグラフに表示する。なお、PSDの固体差に応じた電圧-変位変換係数をメイン制御VIに入力できるようになっており、事前に測定したキャリブレーション値を入力することもできる。
 メイン制御VIの重要な機能の1つは警報機能である。すなわち、層間変位が設定値を超えると建物に重大な損傷が生じたと判断し、自動的に警報機が点灯して知らせる仕組みとなっている。この設定値は予めメイン制御VIに入力しておく必要がある。
一方、このような大地震だけでなく小地震も含めてすべての地震動をデータセンターPCに記録できるようになっている。ただし平時のデータは記録する必要がない。記憶容量を節約するために、サブVIでは地震動のみを記録できるように工夫した。このサブVIを図3(c)に示す。PSDからの電圧出力に振動が見られたら地震発生と判断し、保存を開始する。システムはメモリ上で常にデータを保持しているが、これを絶えず保存しているわけではない。地震発生と判断した際にだけ、地震発生30s前からのデータへ巻き戻して保存を開始し、その後、変位レベルが指定した値より小さくなったら地震終了と判断して保存を完了する。記録データの判別性を高めるために、保存ファイル名には地震発生日時が付与される。


図2  LabVIEWアプリケーションのフロントパネル; (a)入力電圧の変換式(実際の変換はここに示す行列の逆行列を用いて行うことになるが、非常に複雑になるためこのように表記した)と演算用サブVI、(b)メイン制御VI、(c)テキスト保存用サブVI

【結果】
 層間変位センサシステムの開発により、センサ自身の回転成分を変位計測データから除去できるようになった。無線データ収録機のNI-WLS 9205を採用することによって、建築構造物のあらゆる場所において精確な層間変位計測を低コストで実現できるようになった。また、暗号化によるデータ送受信が可能なため、従来の同等なシステムよりも信頼性の高いシステムを構築できている。
 従来は地震発生後のデータ解析に時間がかかっていたが、データの収録と並列して複雑な演算処理と保存を自動かつ高速に行うため、データ解析に費やす労力と時間を削減することができることができた。またデータの選択的保存により、高分解能な監視を長期間実行することが可能になった。開発プラットフォームとしてLabVIEWを使用することで、開発期間2か月(おおよそ従来法の1/3以下)でのシステム構築を達成した。

以上

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