移動体通信による構造物振動広域実時間遠隔モニタリングシステム

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"LabVIEWを使用し、本システムを構築したことで、計測費用のコストダウン、計測設備の削減、そしてデータ処理、高度な解析、報告書作成の効率化を実現した。"

- 岡林 隆敏 教授, 長崎大学工学部社会開発工学科

The Challenge:
今後10年間を予測すると、公共土木構造物の維持管理が重要な問題になる。このような中、膨大な数の土木・建築構造物の維持管理を実現するためには、膨大な数の構造物のヘルスモニタリングを実現する必要がある。

The Solution:
LabVIEWを使って公衆無線回線(携帯電話、PHS、衛星電話)による日本国内の遠隔地の構造物維持管理が可能な計測システムを開発した。さらに、モニタリング点と計測基地を移動体通信でリンクし、そこから無線LANにより無数の計測用コンピュータに接続することも可能である。

Author(s):
岡林 隆敏 教授 - 長崎大学工学部社会開発工学科

1)開発の目的

今後10年間を予測すると、公共土木構造物の維持管理が重要な問題になる。膨大な数の土木・建築構造物の維持管理を実現するためには、膨大な数の構造物のヘルスモニタリングを実現する必要がある。図1に、土木構造物の遠隔モニタリングシステムの概要を示した。筆者らは、LabVIEWを使って公衆無線回線(携帯電話、PHS、衛星電話)による日本国内の遠隔地の構造物維持管理が可能な計測システムを開発した。さらに、モニタリング点と計測基地を移動体通信でリンクし、そこから無線LANにより無数の計測用コンピュータに接続することも可能である。全て無線回線で計測システムが構成されており、極めて低価格で、かつ広範囲な計測が可能になった。維持管理、監視、施工管理、環境計測への利用など、移動体通信によるデータ転送とセンサーによる検出が一体になった新しい計測分野を開くシステムである。本システムにより、次のようなことが可能になった。

1)日本国内の遠隔地の振動計測が、公衆無線回線によりリアルタイムで計測可能になった。
2)ノートパソコン、移動体通信、DAQカードおよびLabVIEWのシステムを使うことにより、低価格の遠隔計測システムが実現できた。
3)公衆無線回線、無線LANを組み合わせることにより、遠隔地の計測が、1つの計測装置で計測しているかのような仮想計測空間を実現できた。

図1:遠隔モニタリングシステム

(2)遠隔計測システムの通信機能
本システムの通信の構成は次のようになっている。2台のパソコンにPHS(携帯電話でも良いが、ここではPHSで代表する)を接続し、Windowsのダイアルアップネットワークを使い、パソコン間をTCP/IP接続する。TCP/IP接続には、LabVIEWに標準に装備されている通信機能である通信オブジェクトのTCP/IPオブジェクトを使用し、2台のコンピュータをクライアントとサーバーにする。遠隔地のデータを単にデータ転送あるいはメールにより転送するシステムはすでに、他の分野で実用化されている。本システムの革新的な点は、次の点である。

1)パソコンが立ち上がって、2台のパソコンが通信可能になると、瞬時に計測点のデータをモニタリングできることである。計測する技術者の心理として、瞬時の状況を計測することが重要である。

2)遠隔計測における革新的な課題は、クライアントと遠隔地で仮想計測空間を実現することにある。LabVIEWでは、クライアントとサーバー間にデータのみを転送して、センサーのある計測現場と観測地に同じ計測画面を構成する機能を持っている。計測システムでは、加速度計の波形を増幅器を通して、DAQカードによりAD変換して、入力データを画面表示する。クライアントからの要求により、サーバーのデータを公衆無線回線に載せて転送する。このデータをリアルタイムで、クライアント側で観測できる。もちろん、通常の計測における、定常的に決められた時間に、決められたデータを転送することも可能である。時間を設定して、AD変換するデータ量を決めておけば、Windowsの自動ダイアルアップ機能により、サーバーからクライアントにデータを転送することができる。図2に、本システムの構成を示した。

図2:移動体通信による無人遠隔モニタリングシステム

3)遠隔モニタリングシステムの機器構成と計測画面
図3に、遠隔モニタリングシステムの機器構成を示した。
①センサーのある検出部、②データを転送するサーバー部、③データを受けるクライアント部である。

システムに必要な機器構成は、次のようになっている。
LabVIEWのソフトウェアは、標準的なもので対応できる
①パーソナルコンピュータ2台
②PHS電話機2台とデータカード2枚(カード型電話機2枚)
③DAQカード1枚
④LabVIEWソフトウェア
⑤各種計測用センサーと変換器・増幅器

図3:遠隔モニタリングシステムの機器構成

また、図4は計測画面である。計測側の画面とモニタリング側の画面は、同じ画面を用いている。

図4:計測画面

4)振動計測遠隔モニタリング適用事例
適用事例は、道路橋の振動計測である。計測現場は岡山県の橋梁の振動加速度を無人計測し、広島県の事務所からモニタリングした事例である。従来の計測であれば、現場計測するか、電話回線でデータを転送する必要があった。本システムを用いると、移動体通信が利用可能な現場であれば、計測現場にセンサーとノート型パソコンを置くだけで、計測が可能になる。もちろん決められら時間に、決められたデータをモニタリングしているパソコンにデータ転送することはできる。さらに、瞬時の計測データを取得できる。あたかも、離れた現場で計測しているかのような、遠隔仮想計測空間が実現できた。図5は、振動計測の事例を示したものである。

①計測状況は、岡山県の橋梁の下に設置した加速度計とPHS・ノートパソコンである。
②モニタリング状況は広島県の事務所の中で、リアルタイムの振動状況をモニタリングしている状況である。

日本国内において、移動体通信が利用可能な地域では、センサー、携帯電話・PHSと小型のノートパソコンを置くだけで、瞬時のデータがモニタリング可能になった。さらに、このような計測システムを使うことにより、計測業務の省力化と効率化が可能になった。
1)計測のための人件費の削減による、計測費用のコストダウン。
2)計測空間の確保、電話転送する場合の設備の削減など、計測設備の削減。
3)計測現場から離れた業務空間から計測が可能なために、データ処理、高度な解析、報告書の作成が極めて効率的になった。

図5:振動計測事例

(5)本システムの革新性
筆者らは、ISDNディジタル電話回線が利用可能な現場では、さらに高度なデータの取得が可能であることを確認している。施工中のコンクリート橋梁施工管理において、コンクリートの温度、ひずみなどを、熊本県で計測し、長崎市における遠隔地モニタリングを実施した。この事例では、橋梁現場から、約300メートル離れた現場事務所まで無線LANでデータ転送し、さらに事務所と長崎大学間はISDNでつながれている。図6に、橋梁施工管理のための遠隔モニタリングの概要を示した。

衛星電話、移動体通信(携帯電話、PHS)、無線LAN等の無線回線を利用することにより、計測は広域的になるばかりではなく、計測装置そのものが簡素化される。近い将来計測技術の跳躍的な技術革新が可能になってきた。

1)計測装置の技術革新
従来の計測装置は、センサーの信号を変換・増幅する部分より、記録する部分に経費がかかっていた。それは、計測現場でデータを記憶する必要があったためである。しかし、計測する部分はセンサーと変換器のみにして、データを無線で転送すれば、計測部と記憶部が空間的に分離された計測器となり、極めて安価な計測装置が実現できる。さらに、このシステムをLabVIEWのソフトウェアで組むことが可能であるので、計測装置の飛躍的なコストダウンが可能になる。無人の計測現場のパソコン画面と、遠隔地のモニタリング部署のパソコンの画面が同じ画面であり、遠く離れた計測現場が、隣の部屋で計測しているような感覚で計測が可能になる、テレイグジスタンスな仮想計測空間が実現できる。LabVIEWのパソコンの画面に、仮想計測器を構築する技術と共に、通信技術と融合した遠隔地の仮想計測空間を構築することにより、新しい計測の局面が実現する。

2)計測空間の広域化
衛星電話、移動体通信(携帯電話、PHS)、無線LAN等の無線回線を利用することにより、計測点とデータの記憶・データ解析する点が国内全域に拡大した。計測装置の部品が、全国に散らばり、それをネットワークで統合化して、一つの計測器として扱うことが可能なった。土木構造物、建築構造物、風力発電などの設備の維持管理、さらに広域の環境計測が、次の世紀の10年代の主要な課題になっている今日、国内規模の広域な計測が可能になった。

図6:橋梁施工管理のための遠隔モニタリング

(6)今後の展開
今後の開発方向として、移動体通信(携帯電話・PHS)と多数の無線LANとリンクした計測システムを考えている。移動体通信(携帯電話・PHS)を使った遠隔モニタリングの技術を発展させ、まず、モニタリング点のパソコンと計測基地のパソコンをより移動体通信(携帯電話・PHS)でリンクさせる。次に計測基地のノートパソコンに、多数の無線LANで接続された計測コンピュータを制御させる。このことにより、安易に設置できる全く結線の必要のない計測システムが実現できる。仮想計測器ソフトウェアLabVIEWの通信機能を拡大して、極めて安価な広域計測が可能なテレイグジスタンスな仮想計測空間を実現する計測システムを開発したいと考えている。

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