ジュール加熱を用いたVaRTMフローコントロール

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"短期間で、測定だけでなく制御までも可能なVaRTMフローコントロールシステムを開発できたことは、LabVIEWの操作性・直観的に理解できるプログラムシステムのおかげだと感じている。"

- 東京工業大学 大学院理工学研究科 機械物理工学専攻 轟・水谷研究室 修士課程1年, 小林 誠治氏

The Challenge:
VaRTMにおいてドライスポットが生じる問題に対して、汎用のLCRメータを使用して電気容量を測定していたが、本研究で用いるセンサには測定点が25点あり、その測定箇所を自作のスイッチング回路で切り替えるとリアルタイムに含浸状況を視覚的に把握することができず、ユーザは含浸しているのかどうかを瞬時に把握することは困難であった。そこで、リアルタイムで測定結果を視覚的に判断し、フィードバック制御を行う統合したツール開発の必要性があった。

The Solution:
LabVIEWを用いることによりリアルタイム測定・視覚的表示・フィードバック制御が可能となり、VaRTMフローコントロールシステムを構築することができた。

Author(s):
東京工業大学 大学院理工学研究科 機械物理工学専攻 轟・水谷研究室 修士課程1年 - 小林 誠治氏

背景

繊維強化プラスチック (FRP) は優れた比強度、比剛性を有するため航空宇宙産業を中心に広く用いられており、近年、部品点数の削減による軽量化・信頼性向上のため複雑形状構造を一体で成形する一体成形技術が開発されている。このため複雑形状構造の成形に適したVaRTM (Vacuum assisted Resin Transfer Molding) の適用が拡大している。VaRTM法は低コスト、設備の簡便な成形法である利点を有する反面、十分な検討・品質管理がなされておらず成形不良が生じやすい欠点を有する。一体成形による構造物の複雑化により、ドライスポットと呼ばれる含浸不良が生じやすくなるという問題が生じている。ドライスポットはFRPの力学的特性を著しく低下させるため、製品として出荷することができず、生産性を低下させる重大な問題となる。現在の品質管理は1つずつ圧縮試験を行うなどをしているが、成形過程において構造全体の樹脂含浸状態を測定し、ドライスポットの生じやすそうな箇所を局所的にジュール加熱することで樹脂粘度を低下させ、樹脂流動を制御することができればドライスポットを回避することができると考えられる。これにより圧縮試験を行わなくても一定の品質が得られ、コスト削減、さらには生産性向上が期待できる。そこで、樹脂流動を制御するためには樹脂含浸状態をリアルタイムで視覚的に把握することが必要であり、そのためにはLabVIEWを用いることが有効と考え、本システムを構築した。

背景

VaRTMにおいてドライスポットが生じる問題に対して、従来は汎用のLCRメータを使用して電気容量を測定していた。誘電体である樹脂がセンサに含浸することで電気容量が増加し、その増加を検知して含浸と判断していた。しかし、本研究で用いるセンサには測定点が25点あり、その測定箇所を自作のスイッチング回路で切り替えていたが、LCRメータには電気容量の測定値が表示されるだけであり、リアルタイムに含浸状況を視覚的に把握することができず、ユーザは含浸しているのかどうかを瞬時に把握することは困難であった。そのため、必要な箇所にジュール加熱を行うと言ったフィードバック制御することができず、樹脂流動を制御不可能であった。そのため、リアルタイムで測定結果を視覚的に判断し、フィードバック制御を行う統合したツール開発の必要性があった。

 

ソリューション

【システム構成】

実験概略図及び測定・制御システムを図1に示す。VaRTMにおける樹脂含浸状態をガラスクロス材の下に敷いた自作センサ(フレキシブルマトリックスセンサ)を用いてインピーダンスを測定する。自作センサは縦横5×5の25点の測定点を有する。本システムの有効性確認のため、アクリル板側からカメラを用いて含浸状況を撮影した。

  1. NI PXI-4072を用いてインピーダンスを測定する。
  2. マトリックスリレー(NI PXI-2529)により自作センサの測定対象箇所を選択する。測定終了したら、測定箇所を切り替え、自作センサ25点の全ての電極のインピーダンスを測定する。
  3. 測定結果からドライスポットが生じる可能性があり、加熱必要と判断された場合には測定を一時的に中止し、リレーの入力を測定デバイスから加熱デバイスに切り替える。波形発生器から10 MHz、 10 Vppを出力し、増幅器を用いて142 Vppまで増幅させる。さらに自作したトランスを用いて200 Vppまで増幅させる。高電圧を自作センサの電極に印加するとジュール発熱し、樹脂が温められて粘度低下し、ドライスポットを回避させる。

図1. 実験概略図

実際のガラスクロス材の積層板を図2に示す。一方のチューブから樹脂を注入し、他方から排出する。このときドライスポットを生じやすくするため、中央のみ積層数を多くした。このため、中央のみ含浸速度が遅くなると予想される。本システムにより含浸の遅れを検知し、一様に含浸するように制御することを試みる。


図2. ガラスクロス積層板

図3にVaRTMにおけるフローコントロールのために作製したアプリケーションのフロントパネルを示す。

  1. インピーダンス、位相角:
    グラフはセンサ内に25点ある電極の特定の1点のインピーダンス、位相角の時間変化を示している。
  2. 測定データ:
    センサ内電極の各種測定値である。
  3. 含浸測定結果:
    2の測定データの変化から樹脂含浸と判断された領域を黒色で示した図である。このように表示することで現在どの領域が含浸しているのか、または含浸していないのかを視覚的に理解することができる。
  4. 加熱コントール:
    3の結果からドライスポットが生じると判断されると測定を一時中止する。自動的に加熱必要な箇所を算出し、加熱が開始され、加熱ボタンが点灯する。


図3. フローコントロールアプリケーションのフロントパネル

結果

  1. フローモニタリング測定のみ(ジュール加熱なし)
  2. ジュール加熱を行い、フローコントロールを試みる

まずは本システムの有効性を確認するため①の測定のみを行い、含浸状況を把握できるか検討した。図4の左側にカメラで撮影した含浸画像を、右側に本手法によるインピーダンス変化による含浸判定図(含浸箇所が黒色)を示す。両者を比較することで本手法により含浸状況を把握可能なことがわかる。また、図4より中央の含浸が遅れており、ドライスポットを生じる可能性があることから加熱の必要性があることがわかる。

次に2のジュール加熱を行い、フローコントロールを試みた。含浸過程にセンサ内の中央横一列をジュール加熱し、その時の温度分布図を図5に示す。黒色の曲線は含浸領域の前縁を表す。電極付近のみ温度が40℃程度に到達しており、局所的に加熱されていることがわかる。含浸画像を図6に示す。樹脂がセンサ内に到達した直後は図4同様、中央の含浸が遅れているが、ジュール加熱することによって図6の(ii)では含浸が一様に進行していることがわかる。以上より局所的なジュール加熱を施すことでドライスポットを回避することができる可能性を示した。


図4. 含浸状況とインピーダンス変化による含浸判定


図5. ジュール加熱時の温度分布


図6. ジュール加熱による樹脂流動制御

ジュール加熱を施すためには構造全体の含浸状態をリアルタイムで把握することが不可欠であり、LabVIEWを用いることによりリアルタイム測定・視覚的表示・フィードバック制御が可能となり、VaRTMフローコントロールシステムを構築することができた。本手法のシステムの構築だけでなく、各種機器をLabVIEWで統合制御することによりユーザへの使用感向上に著しく貢献した。

表1. コスト比較.

従来手法

本手法

データロガー                          150万円

視覚表示                                 100万円

(アプリケーション開発)

合計                                        250万円

PXIコントローラ                       50万円

PXI-4072                                    35万円

PXI-2529                                    30万円

合計                                           115万円

 

コストを表1に示す。従来手法では本センサの25点測定のために高額な多チャンネルデータロガーを必要とし、フィードバック制御のための視角表示に多大なコストを費やしてしまう。また、測定システムと視覚表示システムが分散しているため、デバイスとデバイスとの相性の問題などシステム全体の信頼性に欠ける部分がある。

しかし、本手法ではLab-VIEWとPXIモジュールの連動によりシステムを統括することができ、システム全体が簡便かつ従来手法に比べて54%減の低コストで開発することができた。

表2. 開発期間比較

従来手法

本手法

測定器セットアップ                1年

アプリケーション開発            1年

インテグレーション                1年

合計                                             3年

LabVIEWによる
統合システム開発                      5ヵ月

合計                                              5ヵ月

 

また、開発期間を表2に示す。従来手法の場合、測定器のセットアップ、アプリケーション開発、システムの統合(インテグレーション)など多段階に分かれているためシステム完成まで3年程度の長期間を要するが、LabVIEWとPXIの連動した統合的なシステムを使用することで学生の私がわずか5ヵ月でシステム完成に至ることができた。短期間で測定だけでなく、制御までも可能なVaRTMフローコントロールシステムを開発できたことはLabVIEWの操作性・直観的に理解できるプログラムシステムのおかげだと感じている。

今後は温度測定モジュールを追加し、加熱温度までPXIで制御して、より詳細なフローコントール可能なシステム改良を図る予定である。最終的には樹脂含浸後の硬化過程においても一様な硬化進行するように加熱コントールを施すシステムを構築することでFRP成形過程の全自動モニタリング&コントールシステムの開発を行う。これによりFRP成形全自動生産・品質管理システムが可能となる。

Author Information:
東京工業大学 大学院理工学研究科 機械物理工学専攻 轟・水谷研究室 修士課程1年
小林 誠治氏

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