燃料タンク内で発生する損傷のリアルタイム位置標定システム

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"ライブラリ関数呼び出しノードを用いて、今まで使用していたC言語の計算プログラムをLabVIEWに組み込んで使用することで、能率的に仮想計測器上で解析を行うことができました。"

- 東京工業大学大学院理工学研究科機械物理工学専攻 環境助長損傷制御学(東京電力)寄付講座, 水谷 義弘 助教授

The Challenge:
本研究では、CFRP製燃料タンクへの飛来物の衝突や損傷の発生を監視し、検知した場合にはその場所を正確かつリアルタイムに標定できるシステムを開発することを目的とする。

The Solution:
AE波形を多チャンネルで集録する場合チャンネル同士が完全に同期していなければならないので、測定装置には同期性能に優れているPXIシステムを用いた。

Author(s):
東京工業大学大学院理工学研究科機械物理工学専攻 環境助長損傷制御学(東京電力)寄付講座 - 水谷 義弘 助教授

課題
将来型のロケットや燃料電池自動車の燃料タンクには、軽量化を目的としてCFRP(炭素繊維強化プラスチック)材が用いられる予定である。CFRP材は衝撃により容易に損傷が発生し、強度が低下するという欠点がある。従って、試験中や運用中には飛来物の衝突や損傷の発生を監視し、検知した場合にはその場所をリアルタイムで標定することが燃料タンクの信頼性確保の上で重要な課題となっている。
 一方、構造物に飛来物が衝突したり構造物内で損傷が生じたりすると、AE(Acoustic Emission)と呼ばれる弾性波が発生する。このAEを複数個の超音波センサで検出し、解析すれば、音源の位置を標定できる可能性がある。厚肉の構造物ではAEは縦波や横波で伝わり、これらの弾性波の速度は一定であるので、容易に音源位置を標定できる。厚肉構造物についての音源位置標定システムは市販されている。一方、燃料タンクのような薄板構造物の場合、AEは板波と呼ばれる特殊な弾性波として伝播する。板波は縦波や横波と違い、速度が周波数依存性を示すので、AEの到達時間を決定するのが困難である。また、CFRP材ではAEの速度が方向にも依存するので、位置標定の際にはこれも考慮に入れる必要がある。従って、CFRP製燃料タンク内に生ずる損傷位置をリアルタイムで監視できるシステムは報告されていない。
 本研究では、CFRP製燃料タンクへの飛来物の衝突や損傷の発生を監視し、検知した場合にはその場所を正確かつリアルタイムに標定できるシステムを開発することを目的とする。

ソリューション-システム構成およびアプリケーションの環境等
 燃料タンクの試験片として、CFRPとアルミ板を張り合わせた板を用いる。これは本邦で開発している次世代ロケット用のアルミライナー付きCFRP製燃料タンクを模擬している。試験片上でAEを発生させ、その波形を正三角形状に配置したAEセンサで計測し、ADコンバータでデジタル化する。
 AE波形を多チャンネルで集録する場合チャンネル同士が完全に同期していなければならないので、測定装置には同期性能に優れているPXIシステムを用いた。AD変換ボードは、高速で分解能の高いNI 5122を2枚用いた。
 AE計測用の仮想計測装置はLabVIEW 7.1を用いて構築し、AE計測条件などを自由に設定できるようにした。また、検出した波形をPC画面上に表示し、損傷や衝突を検知した場合には、位置標定結果が表示されるようにした。位置標定部分については複雑な処理が必要であるが、LabVIEWはライブラリ関数呼び出しノードで外部関数を呼び出すことができるので、Visual C++を用いてプログラムを作り、DLL化して仮想計測器に組み込んだ。
 位置標定の際には取得した信号に連続ウェーブレット変換を施して、AEの到達時刻を決定し、順解析によって音源位置を推定するようにした(特許出願済み)。
 なお、位置標定に必要な速度異方性のデータは、同じ仮想計測器を用いて事前に測定し、ファイルに格納してある。

実験結果
 まず、位置標定の詳細な方法を説明する。

 AEセンサを一辺200mmの正三角形の各頂点に配置し、図1に黒丸で示した点でAEを発生させ、AEセンサで計測した。音源としては、シャープペンシルの芯の圧折と鋼球の衝突を用いたが、シャープペンシルは構造物の破壊を、鋼球の衝突は飛来物の衝突を模擬している。

図1

 AEセンサで得られた信号はNI 5122を介してPXI上のコントローラで解析される。仮想計測器上ではまず、FFT解析が各々のチャンネルについて行われ、ウェーブレット変換に適した周波数が選定される。次に、選定された周波数でウェーブレット変換が行われ、各チャンネル間でのAEの到達時間差と到達した順番が計算される。この到達時間差と到達の順番の情報を用いて位置標定が行われる。
 位置標定の部分は、先に述べたように、Visual C++を用いてDLLを作成し、ライブラリ関数呼び出しノードを用いて仮想計測器に組み込んだ。
 これらの処理は仮想計測器上で自動的に行われ、位置標定結果はAEが生じてから0.5秒以内にフロントパネル右側のXYグラフに表示される。なお、音源の周波数成分に応じたサウンドを位置標定結果の表示とともに演奏する予定であったが、PXIコントローラにサウンドデバイスが無かったために断念した。
 仮想計測器のフロントパネルを図2に示す。

図2

 左上のタブ制御器で、位置標定のための設定を行う。
 左下のタブ制御器はデータ収録のための設定を行う。
 中央部のタブ制御器は、各チャンネルの生データ、FFTスペクトル、ウェーブレット結果であり、中央部下に位置標定結果が数値で示される。
 右のグラフ制御器では位置標定結果が図で示される。右上のグラフは1回ごとにクリアされ、現在どこで損傷が起こっているかを知ることができる。右下のグラフは図をクリアせずに、実行開始時点からの標定結果をすべて表示し、現在までに破壊が起こった箇所をすべて表示する。
 音源としてシャープペンシルの芯を用いた場合と鋼球を衝突させた場合の位置標定結果を、それぞれ図3、図4に示す。

図3

図4

 左側がシャープペンシルの芯を用いた場合で、右側が鋼球を衝突させた場合である。
 音源としてシャープペンシルの芯を用いた場合の位置標定結果の平均誤差は2.5 mmで、最大誤差は7.1 mmであった。
 一方、鋼球を衝突させた場合、位置標定の平均誤差は5.1 mmで、最大誤差は16 mmであった。シャープペンシルの芯をAE音源として用いた場合と比較して誤差が大きくなったが、これはAEの周波数成分が低い場合には、ウェーブレット変換の時間分解能が悪くなるためであると考えられる。しかし、最大誤差16 mmという値は実用上問題無いと考えられる。

まとめ
 LabVIEW 7.1とPXIシステムを用いることで、速度異方性を有する薄板構造物に適用できる損傷のリアルタイム位置標定システムを開発することができた。このシステムにより、燃料タンクに物体が衝突した場合や、内部で破壊が生じた場合に、即時にその位置を標定することが可能になった。ライブラリ関数呼び出しノードを用いて、今まで使用していたC言語の計算プログラムをLabVIEWに組み込んで使用することで、能率的に仮想計測器上で解析を行うことができた。
 一連の音源位置標定システムは学部4年の学生が、LabVIEWと学術的なバックグラウンドを一から勉強しながら試行錯誤して製作したが、構築するのに要した期間は4ヶ月未満であり、LabVIEWを用いることで一般的な他の開発言語を使用した場合と比べて開発期間を大幅に短縮できたと考えている。 

Author Information:
東京工業大学大学院理工学研究科機械物理工学専攻 環境助長損傷制御学(東京電力)寄付講座
水谷 義弘 助教授

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