ヘリウム循環装置の計測・制御システム
Author(s):
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 - 岡本 雅美氏
Industry:
University/Education
Products:
LabVIEW, Compact FieldPoint
The Challenge:
・ 長期安定動作
・ ソフトウェア開発の容易さ
・ 仕様変更への対応の容易さ
・ ソフトウェア操作の容易さ
・ リモート監視機能
・ 装置のコンパクト化
The Solution:
・ 周期的計測・制御 1秒毎の圧力測定/電磁バルブの制御、20秒毎の温度/流量/液量等の測定
・ リモートモニタ 測定データのメールでの自動送信、およびFTPでの自動転送
"今回の開発において、LabVIEW Rea l-TimeとCompactFieldPointの組み合わせで安定したリアルタイムシステムを容易に構築できることが実証されました。"
背景
近年、脳磁場計測装置(MEG)による脳の研究、診断が盛んになってきている。MEGの超伝導磁場センサは、液体ヘリウムで約−270℃に保つ必要があり、MEGを1年間稼働させると、液体ヘリウム使用量は数千リットルにもなり、ヘリウムの頻繁な移送作業の負担も大きい。現状では、ランニングコストが年間1,000万円以上かかっており、MEGの普及を妨げる一因ともなっている。我々の研究室では、コスト削減とメンテナンス作業の低減のために、小型冷凍機を用いたMEG用のヘリウム循環装置を開発してきた。
図1. 脳磁場計測装置のヘリウム循環構成
課題
通常、ヘリウム循環装置(HCS)は数ヶ月以上連続で稼働させる。HCSは高圧ガスを扱うシステムであり、計測・制御システムに不具合があると、爆発等の危険が生じる恐れがある。したがって、HCSの計測・制御システムには、長期間の安定動作が要求される。
現在、HCSは開発段階であり、システム構成がまだ確定していない。このため、計測・制御ソフトは仕様変更に柔軟に対応できることが必要である。また、装置側の開発に相当な時間がかかるため、ソフトウェアの開発にかける工数はできる限り押さえたい。
システム運用時は、ヘリウム循環装置を全く知らない脳磁計の専門家がシステムを操作する。よって、ソフトウェアの専門知識を必要とせず、容易に操作できることが必要である。また、本システムは将来的に製品化を目指しており、遠隔地において装置の状況を監視し、不具合時に操作者をサポートできることが望ましい。
【主要課題】
・ 長期安定動作
・ ソフトウェア開発の容易さ
・ 仕様変更への対応の容易さ
・ ソフトウェア操作の容易さ
・ リモート監視機能
・ 装置のコンパクト化
ソリューション
【要求仕様】
・ 周期的計測・制御 1秒毎の圧力測定/電磁バルブの制御、20秒毎の温度/流量/液量等の測定
・ リモートモニタ 測定データのメールでの自動送信、およびFTPでの自動転送
これまで、HCSの1号機システムではPC上で動作する計測・制御システムにC言語を用いて作成していた。PCには不安定要因が多く、ソフトウェアも基本的な機能は満たしていたが、機能追加や頻繁な仕様変更への対応が困難であった。今回、HCSの2号機の開発にあたり、計測・制御システムの実装方法を再検討した。システムの安定動作のために、プラットフォームにはNI Compact FieldPointを採用し、ソフトウェア開発には、開発の容易さ、仕様変更への柔軟さなどからLabVIEWを用いることにした。
①コントローラ
Compact FieldPoint cFP-2020 1個
ADCモジュール cFP-AI-110 1個
リレーモジュール cFP-RLY-421 2個
②開発用ソフトウェア
LabVIEW Real-Time
インターネットツールキット FTP機能を使用
1. システム構成
◆外部機器
温度は、温度計ユニットModel218(LakeShore)を2台用い16チャンネルの計測をする。インターフェースはRS-232Cである。圧力は、圧力計のアナログ出力をADCモジュールで取得する。液面は液面計Model 135(AMI)を用いRS-232Cでデータを取得する。流量制御は、マスフローコントローラCMQ(山武)を2台用いる。インターフェースはRS-485である。
◆ソフトウェア構成
計測・制御はCompact FieldPoint上で走るcFPメインソフトで行う。その操作はウェブ上で走る制御パネルソフトで行う。測定データは状態モニタソフトにてグラフ表示される。データファイルはFTPにて自動送信される。また、指定時間ごとに測定データがメール送信される。
①Compact FieldPoint コントローラ(cFPメインソフト)
計測・制御システムの中核となるソフトウェアである。
②モニタ用PC(状態モニタソフト)
TCP通信でデータを取得し、システムの状況をモニタする。計測データのグラフ表示などを行う。主にシステムの開発時に使用し、システムの運用には必ずしも必要ない。
③モニタ用PC(制御パネルソフト)
リモートパネル通信を用いてウェブ上で計測・制御ソフトの操作を行う。これにより、操作ミスにてcFPメインソフトを停止させてしまうことを防止できる。
④ファイル保存用PC(FTPサーバ)
このPCにcFPメインソフトウェアがFTPで1日に1回ファイルを自動送信する。
⑤開発用PC(cFPメインソフト)
プログラムの開発、ダウンロード等を行う。ダウンロード後はフロントパネル通信によるモニタ・制御を行う。
※開発用PC、モニタ用PC、ファイル保存用PCを分けることは必須ではなく、同じPCであっても良い。
図2. 計測・制御ソフトの構成
2. 結果
◆開発期間
開発手順は、まず1号機にてLabVIEWの学習をかねてプロトタイプ的に機能限定版を作成し、その後、2号機でフルスペック版を開発する方法をとった。開発期間は、担当者1人でほぼ6ヶ月であった。ただし、この期間においても半分ほどの工数はソフトウェア開発以外の作業を行っていた。ソフトウェア開発に専念したとすれば、3ヶ月程で完成したと思われる。
2005年10月~11月: LabVIEWの導入、1号機用システムを作成2号機の仕様検討
2006年04月~05月: 2号機用システムの基本機能の作成
2006年08月~09月: 2号機用システムの機能の作り込み
◆長期安定動作
1号機システムは、これまでに半年以上稼働しており、Compact FieldPointを用いたシステムが長期間安定動作することを実証できた。
◆ソフトウェア開発の容易さ
グラフィカルなプログラミングは直観的な理解がしやすく、開発が容易であった。6ヶ月程でこのシステムを開発できたことがそれを実証している。
◆サポートの充実
サポートプログラムが充実しており、不明な点で開発が停滞することなく迅速に解決できた。少人数にて開発する場合は十分なサポートがあることが必須の項目といえよう。
◆ライブラリによる開発効率アップ
FTPによるファイル送信、メール自動送信などの機能は、付属ライブラリを用いたので、非常に簡単に実装できた。これらのプログラムを1から作っていたのでは、相当な日数がかかったはずであるが、それぞれ1日程度で動かすことができた。
◆仕様変更への対応の容易さ
LabVIEWではサブVIを呼び出すことにより階層化できるが、通常、そのインターフェースは信号線で表記されるので、自然と独立性の高いサブVIとなる。したがって、サブVIの再利用が容易であり、プログラムの変更が簡単に行えた。また、グラフィカルなプログラミングなため、プログラムの解読がしやすい点も、プログラムの修正作業において有効だった。
◆操作の容易さ
制御パネルソフトは、ウェブ上でパネルを操作することができ、新たなソフトウェアの操作を覚える必要がない。また、状態モニタソフトではプロセス図に測定値が表示されるため、状態を直観的に理解することができる。
図3. リモートパネルによる操作画面
◆リモート監視機能
定期的に測定データをメール送信、または、FTP送信する機能を実装した。これにより、インターネットを通して、装置の状態を監視することが可能となった。
◆装置のコンパクト化
Compact FieldPoint は片手で持てる程の大きさで、制御部のサイズを非常にコンパクトにまとめることができた。ヘリウム循環装置を置くスペースは必ずしも確保されているわけではなく、省スペース化は重要なポイントである。
◆コスト削減
本システムでは信頼性の高いハードウェアを選択する必要があった。Compact FieldPointを採用することで、安価に信頼性の高いハードウェアを導入できた。また、ソフトウェア開発では、LabVIEWを採用したことにより、短期間でシステムを構築できた。他の言語開発に較べ作業工数が半分以下になったのではないかと推測する。
まとめ
今回の開発において、LabVIEW Rea l-TimeとCompactFieldPointの組み合わせで安定したリアルタイムシステムを容易に構築できることが実証された。リモートモニタ機能を持ったリアルタイムシステムの構築方法として、一つの雛形を示すことができたと思う。
今後は、LabVIEWの機能追加の容易さを活かし、安定性と機能追加の両立をはかりながら、システムを洗練させていく予定である。
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